胃がんの危険因子「ピロリ菌」とは?

コラム

日本人の胃がんの9割以上はピロリ菌感染が原因と言われており、ピロリ菌をできるだけ早い時期に排除することが、胃がん予防に効果的であることが明らかになっています。
今回はピロリ菌が胃がんを引き起こすメカニズム、ピロリ菌の検査・除菌方法についてご紹介します。

ピロリ菌とは?

ピロリ菌は胃粘膜に生息する細菌で、正式名称をヘリコバクター・ピロリといいます。胃の粘膜は胃酸(強い酸性)で覆われていることから、普通の細菌は胃の中で生息することはできません。ですが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を出してアルカリ性のアンモニアを作り出し、胃酸を中和しながら胃粘膜に生息しています。

日本国内の感染者は3000万人以上と推察され、感染者の多くは50歳以上です。成人になってからの感染はまれで、ほとんどが5歳以下の幼児期に感染すると言われています。幼児期の胃の中は酸性の度合いが弱く、ピロリ菌が生息しやすいためです。

以前は不衛生な井戸水などが主な感染源でした。現在は衛生環境が良くなっていることもあり、生水を飲んでピロリ菌に感染することはなくなりました。ですが、近年は、母から子への食べ物の「口移し」といった家庭内感染が原因として指摘されています。

ピロリ菌が胃がんを引き起こすメカニズム


幼児期に感染したピロリ菌は、長い年月をかけて胃全体に広がり、胃粘膜を攻撃し続けて「慢性胃炎」を引き起こします。

ピロリ菌は、サイトトキシンという毒素を出して、胃粘膜を直接傷つけます。また、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を生成し、その酵素が作るアンモニアによっても胃粘膜を傷つけます。

長期にわたって「慢性胃炎」が続くと、胃液や胃酸を分泌する組織が減弱し、胃の粘膜が薄く痩せてしまう「萎縮性胃炎」という状態になります。「萎縮性胃炎」になると胃液が十分に分泌されず消化不良を起こし、胃もたれや食欲不振といった症状があらわれます。

萎縮がさらに進むと、胃の粘膜を防御する力は激減し、ストレスや塩分過多の食事、発癌物質などに対して無防備な状態となります。「萎縮性胃炎」が進行するにつれて胃がんの発生率が高くなることは統計でも明らかにされています。

ピロリ菌の検査と除菌法

胃がんの予防には、ピロリ菌感染の有無を調べること、そして感染が判明した場合には早急に除菌することが重要です。

ピロリ菌の検査方法には、内視鏡を用いた方法と用いない方法の大きく分けて2つの種類があります。

内視鏡を用いた方法
● 培養法:内視鏡で胃粘膜を採取して培養し、ピロリ菌の有無を診断します。
● ウレアーゼ法:ピロリ菌が出すウレアーゼ活性を測定し、菌の有無を診断します。
● 組織顕鏡法:内視鏡で胃粘膜を採取して染色し、顕微鏡でピロリ菌の有無を判断します。

内視鏡を用いない方法
● 尿素呼気試験法:呼気を採取し、ピロリ菌が出すウレアーゼによって作られる二酸化炭素の量を測定します。
● 抗体測定法:血液や尿中のピロリ菌に対する抗体の有無を調べます。
● 抗原測定法:便中のピロリ菌抗原の有無を調べます。

ピロリ菌の除菌については、通常は2種類の抗生剤と胃酸の分泌をおさえる胃薬の合計3種類の薬を7日間服用します。その後、4週以上あけて除菌の判定を行います。
除菌できていない場合は、抗生剤を変更して2回目の除菌を行います。除菌率は1回目で60〜70%、2回目では96〜97%になると言われています。

まとめ

日本は世界でも有数の胃がん大国で、その原因としてピロリ菌への高い感染率が指摘されています。
2013年からは、ピロリ菌の検査や治療については「慢性胃炎」という診断がつけば、保険が適用されるようになりました。ピロリ菌を除菌する人の数が増えれば、日本の胃がん死亡者数は今後もっと減少すると期待されています。

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