心の健康を左右する脳と腸の密接な関係
私たちの体は、複数の臓器がお互いに関係・影響し合って成り立っています。そして、最近の研究では、脳と腸も密接に関係し合って、私たちの心の健康に重要な役割を果たしていることが明らかになってきています。今回は、そんな脳と腸の密接な関係をご紹介します。
脳と腸の関係を表すことわざ
日本語には脳(心情)と腸を結びつける言葉がたくさんあります。
● 腹を割って話す
● 太っ腹
● 腹をくくる
● 腹が立つ
● はらわたが煮えくり返る
● 腹黒い
● 腑(ふ)に落ちない・腹落ちしない
このような言葉は医学が発展する以前から存在しており、おそらく先人たちは脳と腸が密接に関わり合っていることを無意識に理解していたのではないでしょうか。
脳と腸の密接な関係:脳腸相関
長い間、脳は思考や判断・感情などの神経機能を担当する高度な臓器とされてきた一方で、腸は消化・排泄のための下等な末梢臓器の一つとして扱われてきました。ところが、近年の研究によって、脳と腸は密接に関係し合い、心の健康をも左右することが明らかになってきました。
脳と腸が密接に関係し影響しあう関係は「脳腸相関」と呼ばれています。たとえば、不安やストレスは脳から腸に影響を与え、胃腸のトラブルを引き起こすことがあります。緊張が高まるシーンで起こる腹痛、ストレスによる下痢など、経験されたことがある方も多いのではないでしょうか。
一方で、腸も脳に大きな影響を与えています。腸には脳に次いで1億以上の神経細胞があると言われています。また、腸内細菌も脳に影響を与える神経伝達物質の生成に関与しており、腸と脳の相互作用に大きな影響を与えています。精神面を支配する代表的な神経伝達物質として、「快感ホルモン」と呼ばれるドーパミン、「ストレスホルモン」と呼ばれるノルアドレナリン、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンなどがありますが、その多くは腸で作られているのです。
こうした多くの神経細胞や神経伝達物質を介して、腸から脳へと情報が運ばれます。脳は腸からの信号を受け取り、それを感情として表現しているのです。
心の健康を保つ物質は腸で作られる
精神面を支配する代表的な神経伝達物質のうち、心の健康を保つ上で特に重要になるのが「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンです。セロトニンが十分に作用していると、前向きな気持ちや幸福感が生まれます。逆に、セロトニンが不足していると、うつ病や不安障害などの精神疾患のリスクが高くなることが明らかになっています。
セロトニンの生成には腸内細菌が関与することが判明しています。したがって、心の健康を保つためには、セロトニンが適切に生成されるように腸内細菌のバランスを整えることが重要となります。
旬の野菜や果物など合成添加物が少なく原材料に近い食品、食物繊維が豊富な食品、発酵食品などをできるだけたくさん摂取するように心がけましょう。このような食生活の改善は、心の健康のみならず体調や生活全般の改善にもつながるので、是非ともとり入れたいものです。
また、食事以外にも、腸内細菌のバランスに多大な影響を与える抗生物質などの薬の使用は、必要最低限にとどめることが望ましいと言われています。
まとめ
消化・排泄のための下等な末梢臓器の一つとして扱われてきた腸が、実は、思考や判断・感情などを司る脳へ信号を送り、感情をもコントロールしている。これまでの常識からは考えにくい驚きの事実です。
脳と腸の関係は、まだまだ研究段階にあり未知の部分も多く残っていますが、今後も研究が進展していくことで、より健康的な生活を送るためのヒントが得られることでしょう。脳と腸の興味深い関係。これからもぜひ注目したいですね。